with a sigh




「ん。美味いわ、自分。ええお嫁さんになるで」


 私の作ったお好み焼きを食べた白石さんは、開口一番そんなことを言ったので、


「えっ…?」


 思わず私は持っていたへらを落としてしまった。


 時間は戻って、つい先程のこと。
 鉄板の具合を確かめようと、私と白石さんはそれぞれお好み焼きを作った。
 その後、お互い作ったものを交換しようとした折、何と私の作ったほうを遠山くんが風のように奪い去っていったのだ。
 呆気にとられた私たちは、残された白石さん作のお好み焼きを二人で分けたのだが。


 しかし話はそこで終わらなかった。


「あかん。飢え死にしそうや」


 いきなり白石さんがお腹を抱えて呻きだしたのだ。


「大丈夫ですか!?」

「無理や。腹が減りすぎて、どうにかなりそうや」

「すみません。私が白石さんが作ったお好み焼きを半分食べてしまったせいで…」

「いや、自分は悪ない。悪いんは俺の腹の虫や」


 白石さんは、じっと私を見つめて言う。


「俺は腹が減りすぎて動けん。自分、人助けや思うて、もいっかいお好み焼きを焼いてくれへんか?」


 ――――というやりとりがあって、今に至る。
 幸いなことに、材料には余裕があったので、お好み焼きはあっという間に出来上がった。
 そして、恐ろしいほどのスピードで、それは白石さんの胃におさまっていった。


 よほどお腹が空いていたみたい。


 微笑ましく眺めていた私を硬直させたのが、先程の彼の発言だ。


「へ、変なこと言わないでください!」

「やっぱ自分、おもろいなぁ」

「もう! またからかったんですね」


 私は顔が赤くなるのを止められないのに、それすら白石さんはおかしそうに笑う。
 この手のからかいには、どうしても慣れなくて。
 本気じゃないと分かっているのに、笑って軽く流すことができない。


「けど、嘘やないで。俺のために料理してくれるやなんて、めっちゃ嬉しいわ」

「それは、良かったですけど…」

「ん、そうか。ほな自分、俺のお嫁さんになってみるか?」

「白石さんっ!!」


 顔を真っ赤にして抗議すると、まったく悪怯れた風もなく笑顔のままながら、白石さんはあっさり降参のために両手を挙げた。


「悪い悪い。自分、反応がええからついな」


 つい、ではない。
 そんな大事なことを軽々しく言うなんて。
 それとも白石さんは、いつもこんなことを誰にでも言っていて、慣れっこになっているのか。


 複雑な思いを抱いている間に、白石さんは何やらぽつりと呟いていた。


「でも、結構本気なんやけどな」


 でもその声は私の耳には届かず。
 想像し得るかぎりの白石さんの女性遍歴を浮かべていた。


「はあ」


 どちらともなくこぼれたため息。
 その時には、そのため息に深い意味があるとも思わず。
 同じ想いから生まれたものだと知るのは、まだもう少し先のことだった。








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